12

7/7

917人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
決心? 「桃花さんの用事って……」 「人事の上野さんに会いに来たの。彼女が結婚するの知ってるでしょ。だからお祝いを渡しにね」 「そのためだけに?」 「彼女旦那さんがオーストラリア人で、オーストラリアに住むんだって。だから。………後、気持ちを聞いてみたかったの。上野さんてすごく仕事を頑張ってたのにすっぱりと仕事を辞めて旦那さんについてくって決めたから。実はね、私も今仕事辞めようか迷ってて」 「え、桃花さん仕事辞めるんですか?」 びっくりした。 桃花さんは仕事が大好きで、一生続けていきたいって言ってたから。 桃花さんは1つ大きく頷くと、次いでにっこりと笑った。 「旦那さんが実家の呉服屋を継ぐことになって、私も手伝うとなると両立は無理だから迷ってたの。でも、さっきの星宮君を見てたら心が決まった。仕事は辞める。だけど、MRとして培った能力を呉服屋の仕事にも活かしたいって。人とのコミュニケーション力や商品の魅力の伝え方等色々生かせることはあるはずだから。旦那さんの夢を応援しつつ、自分のスキルも捨てない方法を模索してみるわ」 桃花さんが仕事を辞めるのは正直残念だ。 だけど、好きな人と一緒に生きていくために努力するというのは同じだ。 「じゃあ、競走しましょう」 「いいわよ。私が負けると思ってるの?」 「思いませんが、俺も負けないです」 時間が来たので席を立つ。 会社に戻る桃花さんとは店の前でお別れだ。 「桃花さん着物似合いそうだから、きっと素敵な若女将になると思います」 「いつの間にかお世辞が言えるようになったのね」 「お世辞じゃないですよ。本心です」 「もう。じゃあ私からも1つ。あなたなら大丈夫よ。私が保証するわ。だって私が好きになった男だから」 「えっ………」 「今は旦那さんが一番だけど」と付け足して、桃花さんはペロッと舌を出した。 あなたこそ大丈夫。だって僕が好きになった人だから。 なんて言えるはずもなかったが、桃花さんなら分かってくれるような気がした。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

917人が本棚に入れています
本棚に追加