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目が離せずに見つめていると、腕をぐいっと引かれた。
あれ、七翔君?
「バイトは?」
「もう終わりです。それより薫さん、誰かれ構わず誘惑しないでください」
「誘惑なんかしてないよ」
「してます。志季さんもしっかりしてください」
涙目の七翔君が可愛くて自然と口元が緩んでしまう。
七翔君の注意が俺に向いた瞬間、薫さんは小さく手を振りながら戻って行ってしまった。
「僕が怒ってるのに、志季さんは何で笑ってるの?」
「ごめん。そうだ、薫さんからクッキーもらったから七翔君も食べようよ。ほら、あーん」
イートインスペースに誰もいないのを確認しながら言うと、ムスッとしながらも七翔君は素直に口を開けた。
やっぱり可愛い。
再び笑いそうになるのを必死で我慢しクッキーを口に入れてあげると、七翔君が幸せそうにモグモグと咀嚼しだす。
「美味しい?」
「はい。志季さんは食べました?」
「俺はいいから七翔君が食べなよ」
「ダメです。これは志季さんがもらったものだから。はい、あーん」
食べさせるのはいいが逆は恥ずかしすぎる。
首を振って断るが、食べるまで諦めてくれそうにない。仕方なくゆっくりと口を開けると、クッキーを押し込んだ七翔君の指が唇に触れて離れた。
甘い香りのクッキーに歯を立てるとサクサクといい音がして崩れる。
「どうですか?」
「歯触りもいいし、甘さもちょうどよくて美味しいよ」
「そうでしょ」
まるで自分が誉められたように七翔君が嬉しそうに微笑んだ。
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