13

6/19

917人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
目をキョロキョロとさ迷わせていると、分かりますと言いはなった七翔君にがしっと両手を掴まれた。 「笑顔って、本当にやっかいなんです。自覚ないかもしれませんが、志季さんの笑顔ってすごく癒されるんですよね。だから、恋人がいる風早さんや薫さんまでみんな志季さんの虜になってて、知ってましたか、風早さんは志季さんがいつ来ても美味しいご飯を作れるように常に材料をストックしてるんですよ。薫さんも志季さんが来たらホイホイ店に出てくるし」 眉間にシワを寄せる七翔君を見ながら言われた言葉を反芻(はんすう)する。 癒されるって、それってペットや子供を見ると和むのと同じだよな。30近い男がそんな風に思われているなんて、果たして喜んでいいのだろうか。 もちろんあんな素敵な人達に気にかけてもらえるのはすごく嬉しいんだけど。………じゃあ風早さんが夕飯を用意してくれるのは、子供におやつをあげる感覚なのか。 1人暮らしの俺にとって美味しい飯は純粋に嬉しいのだが、理由を知った今はすごく複雑な気分だ。 「今度からは笑うの控えようかな……」 ボソッと呟くと、七翔君が激しく首を振った。 「嫌です。辛いことがあっても志季さんが大丈夫だよって微笑んでくれるだけで気持ちが楽になり幸せな気分になるんです。だから、そんな風に言わないでください」 七翔君の綺麗な指にぐっと力が入ると、俺が握っている牛丼の袋がカサカサと音を立てた。 「分かりました、我慢します。志季さんが誰に笑いかけても我慢しますから、笑うのを止めるなんて言わないでください。………本当は僕にだけ笑いかけてくれたら嬉しいのですが」
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

917人が本棚に入れています
本棚に追加