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風早さんが小桜さんをからかう気持ちが分かってきた。
反応が素直で面白い。
「もしかして照れてるんですか?」
「まさか。俺が星宮君に照れるわけないだろ」
「へえ、そうなんですか」
ちょっと身を乗り出すように更に見つめると、やめろよと小桜さんが手で顔を隠した。
ちょっとからかい過ぎたかな。
浮かせていた腰を戻すと同時に、係長が部屋に入って来た。
「あれ、お前たち二人だけか?」
「はい」
「そうか。………ところで、小桜はどうしたんだ?」
うつむいた小桜さんを係長が不思議そうに見ている。
「さあ……。あ、俺も出てきます」
時計を見て、予定を思い出した。
今から行けば昼休みに目当ての先生を捕まえられるかもしれない。忙しい先生でまだ新薬の説明が出来てないのだが、あの先生なら絶対に興味を持ってくれると確信している。
今日捕まえられれば年内に契約もありうるかも。
「いい顔だな」
あれ、顔に出てるのか?
「えーと、頑張ります」
係長に頭を下げて部屋を出ると、エレベーターホールまで足早に歩いた。
ダメだな。気持ちが顔に出る営業なんて最悪だ。
頬をパンパン叩いていると、後ろから急いだ風の足音が近づいてきた。
「おい、待てよ。時間は決まってない」
一瞬何の事か分からなかったが、たぶんさっき尋ねた答えだ。
「カップルだらけになるからその日は店を休みにするらしいが、連絡してくれたら鍵を開けるって言ってたよ」
「そうなんですか。じゃあ、19時位に行きます」
「分かった。御影に伝えとく」
「俺、クリスマス料理にこだわりはないので、和食でも何でも、なんならお茶漬けでも御影さんの料理なら全てオッケーですから」
「………完全に胃袋掴まれているな」
「そうですね。小桜さんもでしょ?」
「まあな」
「楽しいイブになりそうですね。じゃあ、行ってきます」
エレベーターに乗り込み小桜さんに手を振ると、「いってらっしゃい」と照れながら手を振り返してくれた。
やっぱり可愛い。
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