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担当の病院から戻り書類をまとめると退社が遅くなってしまった。
腹が減ったな。先に何か食べるか、それとも酒で誤魔化すか……。うーん、酒だな。
もう9時を回っているのに、まだケーキ屋には明かりが灯っていた。
どこも大変だなと思いながらバーの前に立つ。
間接照明に照らされた扉には『a gale』。意味は確か疾風……だったかな?
へえ、ますますいい感じ。………でも初めての店は緊張するんだよな。
えいと気合いを入れて少し重めのドアを開けゆっくりとカウンターに近づくと、奥に先客が1人いて静かにグラスを傾けていた。
「いらっしゃいませ。どうぞ」
落ち着いた温かみのある声に緊張が少しほぐれ、スツールの真ん中から1つ左に腰かけた。
「ジン・トニックを下さい」
「かしこまりました」
この声好きだな。なんだか落ち着く。
「これ、良かったら」
スッと出されたナッツの小皿を見た途端にお腹がぐーと鳴った。
「何かお作りしましょうか?」
「いいんですか?」
「ええ。でも内緒ですよ」
髪を後ろで結わえたバーテンダーが長い指を口の前に立てた。
「パスタはお好きですか?」
「はい」
「辛いのは大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「ではペペロンチーノを作るので、少しだけお待ちくださいね」
こちらからは見えないがカウンター内で調理が出来るようになっているらしい。
出されたジン・ライムを飲みながらトントントンと響く包丁の音を聞いていると、扉が開いて誰かが入ってきた。
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