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シチューを食べ終わると、風早さんがガラスの容器に入ったデザートを出してくれた。
「ティラミスですか?」
「そう。でも中にカルーアというお酒を入れてるんだよ」
「カルーアって確かコーヒーリキュールですよね?」
「よく知ってるね。カクテルでは、牛乳で割ったカルーアミルクが有名かな。そんなに甘くはないと思うんだけど」
「甘いのも食べれるから大丈夫ですよ」
スプーンを入れると、表面を覆っているココアパウダーの下になめらかな黄色い層が見える。
「これも風早さんが?」
「そうだよ。混ぜるだけだから作りやすいんだ」
混ぜるだけなら俺にでもできるだろうか。風早さんにレシピを聞いて今度七翔君に作ってあげたいな。
プリンのカラメルのような一番下の茶色の層までスプーンを入れて食べると、ティラミスにコーヒーのほろ苦い味が混じっている。
「うま……あ、いや美味しいです」
「うまいでいいよ」
ツボに入ったのか、風早さんがクスクスと笑いだした。
「笑いすぎです」
「ごめんね」
「御影は昔から笑い上戸なんだよ。俺がコーヒーに酢を入れた時なんかすごかったよな」
「コーヒーに酢……?」
「アハハハハ。そうそう、あれは傑作だった。ガッツリしたのが食べたくて慎と中華屋に入ってセットを頼んだんだ。それにコーヒーがついてたんだけど、何を思ったのか慎がテーブルに備え付けの酢を垂らしたんだ」
「………ガムシロかと思ったんだよ」
「ぷっ。そんなわけないだろ。酸辣湯麺の酸味が弱くて、俺が酢を足してたの見てただろ」
「………うるさいな。なんか間違えたんだよ」
風早さんが笑い上戸なのではなく、単に小桜さんが天然なのでは……。
「慎のお陰で笑いがおさまったよ。志季くん、そろそろお使い頼んでもいい?正面は閉まってるから裏口から入ってね」
「はい」
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