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『パティスリー薫』の裏口で七翔君を待っていると、通っている内にすっかり顔馴染みになったバイトの子達が次々と出てきた。
「お疲れ様。大変だったね」
「あ、星宮さん。こんばんは。はい、くたくたです。もう当分ケーキは見たくないです」
いつもは明るい女の子がため息をつくのを見ると、この一週間の大変さがうかがい知れる。
「そうなんだ。じゃあ、今夜は早く休んで明日の休みものんびりしてね」
「ありがとうございます。でも、私達これから駅前のカラオケでお疲れ様会するんです。朝まで歌っちゃおうか検討中で」
元気だな。さすがに若い。
「良かったら星宮さんもご一緒しませんか?」
「………俺は遠慮するよ」
「残念。あ、もしかしてこれから店長と約束なんですか?」
普段は接客しない薫さんが厨房からわざわざ出て来て相手をしてくれるので、すっかり薫さんの友達だと勘違いされているようだ。
「まあ……」
「やっぱり。二人で飲みに行かれるんですか?」
「えっと……」
返答に困っていると。
「あれ、どうしたの?」
愛しい声の方を見ると、七翔君が薫さんと一緒に立っていた。
「今星宮さんをカラオケに誘ってたの。七翔君も行こうよ」
「えっ、志季さんカラオケに行くの?」
「いや、俺は……」
「残念ながら星宮さんには断られちゃったの」
「………なんだ、びっくりした。僕も用事があるから」
「七翔君、デート?いいなぁ。じゃあ寂しい私達だけで盛り上がろうか」
「うん」
賑やかな集団が行ってしまうと、途端に静かになる。
「薫さん、七翔君、お疲れ様です」
改めて告げると、薫さんがうーんと伸びをした。
「さすがに疲れたよ。志季君もお疲れ様」
薫さんが七翔君の肩をポンと叩いた。
「ほら七翔、後少し残っているクリスマスを大切にしろ」
「はい」
「志季君バイトの子がごめんね」
「いえ大丈夫です。じゃあ俺達はこれで。七翔君」
「はい」
笑顔の七翔君が隣にピョコンと並んだ。
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