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「風早さん、お腹ペコペコだから何か作って」
常連なのだろう。新しく来た客は俺の隣に迷いもなく腰掛け、カウンターに突っ伏した。
「七翔くん、いらっしゃい。ハハ、限界なんだね。ペペロンチーノでいい?」
「うん、大好き」
ペペロンチーノと聞いた途端、隣の客はピョコンと顔を上げた。
「薫はまだ仕事?」
「うん。新作のアイデアが浮かんだんだって。めちゃめちゃ嬉しそうにスケッチしてたよ」
「そうか」
俺に対するよりもくだけた口調で話しながら、バーテンダーはすごく幸せそうに微笑んだ。
「お勘定」
先に来ていた客が声をかけると、バーテンダーが客の前に移動した。
「………うるさかったかな」
隣の客が申し訳なさそうに呟いた。
「風早さん、ごめん」
先客が帰ると、七翔と呼ばれた隣の客がバーテンダーに謝った。
「気にしなくて大丈夫。お酒が無くなったから帰っただけだから」
「本当?」
「本当だよ。ほら、もうすぐ出来るよ」
バーテンダーが告げると、ジューという食欲を刺激する音と共に美味しそうな匂いが広がった。
ぐー。
また腹の虫が鳴ってしまい、腹を手で押さえながら1人赤面する。
絶対聞こえたよな。
隣が気になってチラリと覗き見ると、こちらに顔を向けていた彼とバッチリ目があってしまった。
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