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七翔君のドキドキが伝わってくる。
「あの………」
「はひ」
うわ、緊張のあまり変な声が出てしまった。
真剣な空気を壊したんじゃないかと慌てて七翔君を見ると、彼は目をまんまるにして俺を見つめ、そしてぷっと吹き出した。
「………ごめん」
「いえ。立ちっぱなしも何なので座りましょうか」
「ああ」
言われた通りに床に敷かれたラグの上に腰を下ろすと、膝立ちの七翔君にふわりと抱き締められた。
「顔を見ると恥ずかしいのでこのまま聞いてください。……僕は志季さんが好きです」
分かっていてもびっくりして肩が跳ねてしまう。
「驚かせてすみません。最初は妹さんのためにケーキを買うなんて、なんて優しい人なんだろうと思ったんです。普通はそれで終わりなのに、何故かあなたの事がずっと気になっていて、次の日美琴ちゃんからあなたがお兄さんだって聞いて、ますます興味が湧きました。それから、店のドアが開く度にあなたかもしれないとドキドキしました」
恋に落ちるきっかけなんて、そんなものなのかもしれない。俺も最初の挨拶で桃香さんに「よろしくね」って笑いかけられた時から意識しだした。
七翔君が俺から離れて、サラサラの髪をかきあげた。
「僕は両思いになりたいなんて思ってません。僕が好きになるのはいつもゲイじゃない人なんです。実らない思いだって分かってます。だから、気にしないでください。………こんな話を気持ち悪がらずに聞いてもらえただけで嬉しいんですから」
七翔君は満足したのか、俺の帰りを心配し出した。
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