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ピンポンピンポンピンポン。
朝っぱらからインターホンをしつこく連打されて目が覚めた。
煩いな。
顔をしかめながらベッドから起き上がり、ゆっくりと玄関まで歩いて鍵を開ける。
「お兄ちゃんおはよう。今日もいい天気だよ」
「………おはよう。今回は何があったんだ?」
妹の美琴はこんな風に突然訪ねてくる事があり、それは大抵落ち込んだ時だ。
「それが……」
「まさか失恋とか?」
「…………」
美琴がプイとそっぽを向く。
マジか。兄妹揃って失恋だなんて………。
「今日は美琴が行きたいところに連れていってやるから元気だせよ」
「本当?じゃあ、七翔君がバイトしてるケーキ屋さんに行ってみたい。栗やさつまいもを使った秋限定のガトーショコラがあるんだって」
七翔君か。あれ以来会ってないから少し気まずいが、まあ大丈夫だろう。
「よし。でもその前にモーニング食べに行ってもいいか?」
「いいよ。そう言えば私も朝ごはんまだだった」
朝食を忘れるほど落ち込んでいたのだろうか?
「俺の前では無理に笑わなくてもいいからな」
「うん、ありがとう。………お兄ちゃん、先生ね、彼女いるんだって」
「そうか」
「うん」
先生というのは美琴が好きだった大学の講師の事だろう。美琴はそれ以上詳しいことを言うつもりはないようだ。
女の子ってよく泣く生き物だと思っていたが、美琴は昔から何故か泣くのを我慢する子だった。
相変わらず、意地っ張りだな。
そんな時はいつも美琴の頭をポンポンと撫でてやるんだ。すると。
うつ向いた美琴から涙がポタリと床に落ちた。
彼が出来たらこの役目も終わってしまうんだろうかと思うと寂しくて、美琴が失恋して良かったなんて思ってしまう。
悪い兄だな。
俺のTシャツをぎゅっと握ってくる美琴の頭を撫でながら、可愛い妹に頼ってもらえる喜びを噛み締めていた。
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