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「どうしたの?」
「いや、月日の経つのは早いなって思って。……やば、行きすぎる所だった。ここが七翔君の働いているケーキ屋だよ」
『パティスリー薫』という看板の前で立ち止まると、美琴の目がキラキラと輝いた。
「写真で見るよりずっと素敵な外観だね。中もかな。早く入ろ!」
はしゃぐ美琴に腕をひかれ、店内に入った。
「わあ、美味しそう」
ガトーショコラを見にきた筈なのに、美琴はフルーツタルトに釘付けになっている。
「美琴ちゃん、志季さん、いらっしゃいませ」
「あ、七翔君だ。来ちゃった。すごくいいお店だね。制服もすごくカッコいい」
「ありがとう。………志季さんの私服初めて見た」
「普段はスーツだもんね。私服もなかなか似合ってるでしょ?」
「うん。でも何で美琴ちゃんが得意げなの?」
「お兄ちゃんの私服は私が選んだものなの。でないとTシャツと短パンで一年中過ごしそうだから」
美琴の言葉に七翔君がクスクスと笑った。
いくらなんでもそんな事はないと思う。少なくとも短パンは冬にははかないと思う。たぶん。
「志季さんて服装とかこだわる人かと思ってた。二回しか見たことないけど、スーツがお洒落だったから」
会社を代表して営業に行ってるのでスーツには気を使っているが、私服は動きやすさが一番のポイントだ。
苦笑いを浮かべていると、奥から薫さんが顔を出した。
普段はほとんど店に出て来ない薫さんを見て、 お客さんがざわついた。
「志季君、いらっしゃい。この間は、大丈夫だった?」
「薫さん、こんにちは。はい、あんな風に帰ってしまってすみませんでした」
「いやあれはあいつが悪いし、七翔も世話になったみたいだしな」
男らしい薫さんに店内の女子はみんな釘付けだ。美琴を除いてだが。
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