917人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
クイクイとシャツの裾を引かれる。
美琴が俺をこっそり呼ぶ時はいつもこうする。小さい頃から物怖じしない美琴は俺が男友達と居るところにも平気で混ざっていたが、邪魔をする事なくいつもニコニコと俺達の話を聞いていた。そして、用があるときはこうやってみんなに分からないように俺を呼んだ。
ん?と美琴を見ると、紹介してという風に薫さんを見ていた。
が、相変わらずだな。
美琴の目には薫さんに対する恋愛感情などはなく、純粋に興味が滲み出ている。
昔から美琴の恋愛対象は人とは少しずれていた。みんながカッコいいという子には見向きもせず、どちらかというとクラスで浮いてる感じの子を好きになる。私がいないとダメという庇護欲を掻き立てられるような引っ込み思案や人見知りが激しい子に惹かれるみたいだ。
別にそれが悪いわけではないが、兄としては同情と恋愛を混同してるのではと多少心配になる。
まあ、恋愛に関しては俺も人の事は言えないが。
紹介か。よし。
「あの、薫さん、これは妹の美琴です」
「はじめまして。美琴です。ガトーショコラすごく美味しかったです」
美琴がペコリと頭を下げると、薫さんが「はじめまして。ケーキ気に入ってもらえて良かったよ」と嬉しそうに笑った。
「はい、すごく美味しかったので、今日も買いに来たんですが、フルーツタルトにも惹かれてて」
美琴がショーケースの中のフルーツタルトに目をやると、七翔君がにっこり笑った。
「そう言えば美琴ちゃんはフルーツタルトも好きなんだよね。じゃあここでフルーツタルトを食べて、ガトーショコラは買って帰ったら?」
「七翔君天才。お兄ちゃんそうしよう」
店の奥に喫茶スペースがあって、そこで店にあるケーキを食べることができるらしく、そうすることにする。
「七翔と美琴さんは知り合い?」
「僕達、大学が一緒なんです、ねっ」
「うん」
「へえ。それじゃあ次は俺と志季君が親しくならないとね。志季君よろしくね」
差し出された手をとり握手すると、七翔君がズルイと叫んだ。
最初のコメントを投稿しよう!