5

2/10

917人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
あー、やっと終わった。 プリントアウトした書類をファイルに挟みパソコンの電源を落とすと、心地よい充足感を感じる。 今週は特に忙しかったが、なんとか無事に乗りきった。 忙しさの原因になった奴はとっくに帰ったようだが………。 俺は目の前の少し乱雑な机を見てから、すぐに目を反らした。 桃花さんが使っていた時はスッキリと片付いていた机には、ファイルや書類が沢山置かれている。決して散らかっている訳ではないのだが、見ていて少し不快感を感じる。 それは、この机の持ち主である小桜(こざくら) 慎太郎(しんたろう)への感情と相まっているのかもしれない。 小桜さん(一応年上だから)は桃花さんの代わりに転勤してきた人で、見た目はみんなが噂していた通りのイケメンだ。年齢は確か35歳で背も高く、仕事も出来る人らしい。 2週間前に彼はここにやってきた。最初の数日間は係長と一緒に担当病院に挨拶巡りをしていたが、その後は1人で仕事をこなしている。MRとしては俺よりもかなり先輩だから当たり前なのかもしれないが、すぐに馴染んでいるところもちょっとだけ悔しい。 何故俺がこんなに彼を嫌っているかというと、1週間前の歓迎会の時の彼の態度が許せないからだ。 幹事を任されていた俺は、追加の酒を注文したり、酔っぱらいを介抱したりと飲み会の間もバタバタと走り回っていた。 気分が悪いという先輩社員に付き添ってトイレから出ると、廊下に小桜さんが立っていた。 「どうかされましたか?」 小桜さんが転勤してきてから数日経っていたが、お互いにほとんど席にはいないので挨拶以外話すのは初めてだった。 「ちょっと酔ってしまって。外の風に当たりたいって思ったんですが、どうやら迷ってしまったみたいです」 この居酒屋は増築してるせいで造りが複雑で、初めての人は大抵迷ってしまう。だから、何の違和感もなく俺は小桜さんを外まで案内した。 駅前通りから一本裏に入った所にあるこの居酒屋は、広くて大人数でも大丈夫なのでよく利用している。料理もうまく値段も手頃だが、立地がよくないせいかどちらかというと俺達みたいな常連客がほとんどを占めていて混みすぎないところも気に入っていた。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

917人が本棚に入れています
本棚に追加