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「風が気持ちいいです」 結構飲んだのだろうか、小桜さんの顔は少し赤くなっている。 「大丈夫ですか?水買ってきましょうか?」 確かすぐ近くに自動販売機があったはずだ。 「いえ大丈夫です。ありがとう」 すぐ向こうは駅前だというのに人通りがないせいか、彼の少し掠れた低い声がよく聞こえる。 小桜さんの隣でしばらく通りを眺めていたが、次第に中の様子が気になりだした。 「あの、そろそろ戻りませんか?」 「そうですね。1つ聞いてもいいですか?」 「はい」 「付き合っている人はいますか?」 え……と思ったが、酒の席で恋愛話が出るのは珍しい事ではないので、慌てずにいいえと返した。 「じゃあ、俺のセフレになりませんか?俺、上手いですよ」 「セフレって……俺男ですよ」 「知ってますよ。だから誘ってるんです。俺、ゲイなんです」 まさかこんな所でカミングアウトされるとは思っていなかったので驚いていると、小桜さんに腕を掴まれて隣の建物との間の狭い路地に連れ込まれた。 「小桜さん、何を………んっ………」 一昔前に流行った壁ドン状態になり、いきなり唇を塞がれてしまう。 柔らかい唇の感触と酒の匂いが混ざりあい、背筋に悪寒が走った。 ━━気持ち悪い。 首を振り懸命に逃れようとするが頭を固定されてしまい思うようにはいかない。が、ヌルッとした舌が唇に触れた時、我慢できずに股間を蹴りあげてしまった。 「うっ」 苦しそうな呻き声が聞こえ、力が弱まっ隙に小桜さんから離れ、彼を睨み付ける。 「冗談はやめてください」 キス魔にしては酷すぎる。だけど、酒の席でのおふざけならば、股間を蹴りあげるのはやり過ぎかもしれない。
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