5

5/10

917人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
土日を挟んだ今週。小桜さんの俺に対する地味な仕返しが始まった。 「星宮君、コピー機の調子がおかしいんだけどみてくれるかな?」 「星宮君、この書類の書き方なんだけど……」 「星宮君、この病院の最寄り駅は?」 調べればすぐわかることを全てを俺に聞いてくるようになった。 「新しい環境にまだ慣れなくて。星宮君が親切にしてくれるから助かるよ」とみんなに聞こえるように言われてしまい、断ることも出来ない。 策士だ……。 たまに「私が教えましょうか?」と小桜さんに近づきたい女子社員が声をかけてくれても、「星宮君に聞いちゃったからごめんね。次わからないことがあれば次は君に真っ先に聞くよ」ととびきりの笑顔で返すと、彼女達は真っ赤になって「いつでも待ってます」と帰って行くのだ。 そんな彼女達を笑って見送ると、小桜さんは俺の隣に来て肩や背中を触ってくる。 「止めてください」 「俺が経理の人にベタベタ触られたのは誰のせいだ?」 「あなたなせいでしょ!」 「いや、君のせいだよ。だから、俺は君に触る権利があるんだ」 「……………」 何を言ってもこの調子で諦めて質問に答えていたのだが、ストレスはたまるし自分の仕事は遅れるしで散々だった。 こういうのも立派なハラスメントだよな。 あーイライラする。 そうだ、風早さんのバーに行って、ストレス解消しよう。また美味しいペペロンチーノ作ってもらえるかもしれないし。 ケーキ屋の前を通ると電気が消えていた。 もう9時だもんな。 バーの扉を開けると、「いらっしゃい」と風早さんの優しい声がする。 あー癒される。 そう思ったのに……。 カウンターの一番端に小桜さんが座っていた。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

917人が本棚に入れています
本棚に追加