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土日を挟んだ今週。小桜さんの俺に対する地味な仕返しが始まった。
「星宮君、コピー機の調子がおかしいんだけどみてくれるかな?」
「星宮君、この書類の書き方なんだけど……」
「星宮君、この病院の最寄り駅は?」
調べればすぐわかることを全てを俺に聞いてくるようになった。
「新しい環境にまだ慣れなくて。星宮君が親切にしてくれるから助かるよ」とみんなに聞こえるように言われてしまい、断ることも出来ない。
策士だ……。
たまに「私が教えましょうか?」と小桜さんに近づきたい女子社員が声をかけてくれても、「星宮君に聞いちゃったからごめんね。次わからないことがあれば次は君に真っ先に聞くよ」ととびきりの笑顔で返すと、彼女達は真っ赤になって「いつでも待ってます」と帰って行くのだ。
そんな彼女達を笑って見送ると、小桜さんは俺の隣に来て肩や背中を触ってくる。
「止めてください」
「俺が経理の人にベタベタ触られたのは誰のせいだ?」
「あなたなせいでしょ!」
「いや、君のせいだよ。だから、俺は君に触る権利があるんだ」
「……………」
何を言ってもこの調子で諦めて質問に答えていたのだが、ストレスはたまるし自分の仕事は遅れるしで散々だった。
こういうのも立派なハラスメントだよな。
あーイライラする。
そうだ、風早さんのバーに行って、ストレス解消しよう。また美味しいペペロンチーノ作ってもらえるかもしれないし。
ケーキ屋の前を通ると電気が消えていた。
もう9時だもんな。
バーの扉を開けると、「いらっしゃい」と風早さんの優しい声がする。
あー癒される。
そう思ったのに……。
カウンターの一番端に小桜さんが座っていた。
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