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次の日美琴から送られてきた店を調べると、ケーキ屋は会社から5分と離れていない所にあるらしい。 よく見ると飲食店って結構あるんだな。ケーキ屋のすぐ近くに感じのいいバーを見つけてちょっと嬉しくなる。甘い物がそんなに得意ではない俺には、ケーキ屋よりもこういう店の方がありがたい。 今度来てみようと心に決め、ケーキ屋の前に戻り店名を確認する。『パティスリー薫』。美琴から送られてきた店に間違いない。 それにしても最近のケーキ屋はおしゃれだな。 そんなことを考えながらドアを開けると、「いらっしゃいませ」という元気な声に出迎えられた。 あれ、男の子だ。珍しいな。 ショーケースの向こうに立っていたのは、少し茶色の髪をした、大きな目が印象的な大学生くらいの男の子だった。白いシャツにこげ茶色のタイをしめ、腰から下に同じこげ茶色の長いエプロンをつけている。 にこやかな笑顔に小さく会釈を返しショーケースの中を覗き込むと、食べるのが惜しいくらい綺麗なケーキが沢山並んでいた。 「えーっと、ガトーショコラを下さい」 ガトーショコラと聞いてホールのケーキをカットした形を想像していたが、ここのはパウンドケーキのような四角い形をしている。表面は周りの景色を映すんじゃないかと思えるほど艶々と美しく、濃くて少量でも満足しそうな気がする。 「かしこまりました。以上でよろしいですか?」 聞かれて少し悩む。ガトーショコラは勿論買うが、このケーキは誕生日ケーキにしてはシンプルすぎてなんだか素っ気ない気がする。 ショーケースの中には美琴が好きなフルーツたっぷりのタルトや宝石のようにきらきら輝くゼリーもあり、こういう華やかなケーキをプラスで付けた方が美琴も喜ぶのかもしれないな。
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