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バーでの一件以来、小桜さんの嫌がらせが無くなった。
それはありがたいんだが、代わりにやたらと飲みに誘われるようになった。
「どうして俺に構うんですか?」
「星宮君と仲良くしないと御影に出禁にされるからかな?」
「風早さん、そんな事言ってませんでしたよね」
━━ああ、面倒だなぁ。
今日も誘われたらどうしよう……と思いながら会社に戻ってくると、ビルの前に七翔君が立っているのが見えた。
「七翔君、どうしたの?バイトの帰り?」
七翔君は黙ったまま首を横に振った。
「もしかして、俺に会いに来てくれたの?」
「………ごめんなさい。迷惑かけるつもりはないんです。ただ、志季さんの顔が見たかっただけで……」
何かあったんだろうか?
会社に戻るつもりだったが、七翔君が心配で直帰することにした。
「家まで送るよ」
通い慣れた道かもしれないが、明らかにいつもと様子が違うのでとても1人では帰せない。
「家………、そうですね」
「七翔君、大丈夫?何かあったの?」
「父親と喧嘩してしまって……。あーやだなぁ、僕子供みたいですね」
七翔君は小さく呟くと俺から一歩離れた。
「少しブラブラしてから帰ります。突然会いに来たりして、すみませんでした 」
なぜだが分からないが、このまま七翔君を行かせてはいけないと強く感じた。
「待って。良かったら家に来ない?」
「でも、迷惑じゃ……」
「迷惑なんかじゃないよ。俺達友達だろ?」
「………そうですね」
七翔君の表情が少しだけ曇る。
もしかしたら俺といると更に七翔君を傷つけてしまうのかもしれない。だけど、どうしても君を1人にはしたくない。
俺は黙って七翔君の腕を引くと、タクシーを捕まえて自宅に向かった。
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