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「志季さん、大丈夫?」 「ああ、ごめん。コーヒー入れ直そう」 「僕、あのままでも……」 「ダメだよ。今ので更に体冷えちゃっただろ?」 コーヒーを入れ直して戻ると、七翔君がカーペットについたコーヒーのシミをじっと見ていた。 「すみません、汚しちゃいました」 焦げ茶色のカーペットなのでそんなに目立たないが、シミがあるのは分かる。 「まだそんなに時間が経ってないから取れるんじゃないかな」 タオルを取ってくるとシミの上からポンポン叩き、できるだけシミをタオルに移すようにする。 「取れましたか?」 「これだけじゃダメなんだ」 新しいタオルに台所用洗剤をたらし、水をかけて薄め、再びカーペットをトントンする。 「ほら、もうほとんど分からなくなったよ」 「本当だ、すごい」 「後は洗剤を落とすだけだ」 タオルを水で濡らして再び同じ場所をポンポンし、乾いたタオルで拭き取ると、七翔君がすごいすごいと目をキラキラさせて俺を見た。 「本当に取れた」 「うん。昔ジュースを溢した時に、母親がやっていたのを真似ただけなんだけどね」 「志季さんは自慢の息子なんだろうね。それに比べて僕は……」 原因、聞いてもいいのかな? 「あのさ、俺で良ければ話聞くよ」 少しだけ迷った後、七翔君は口を開いた。 「僕、パティシエになりたいんです」 「え…………」 パティシエ? でも七翔君は美琴と同じ大学に通っている。 父親との喧嘩の原因が分かった気がした。 彼の大学は割とレベルが高く、就職にも比較的有利だと言われている。大学を卒業したら彼がどこかの企業に勤めると信じていた両親は、いきなりパティシエになりたいと言われてさぞびっくりしたことだろう。 家の両親も美琴が同じ事を言い出したら、戸惑って反対するかもしれない。 「ねぇ、詳しく聞かせてくれる?」 「はい」
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