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「今のバイトを始める前はパティシエなんて全く興味がなかったんです。でも、薫さんの仕事や考えに触れ、ケーキを嬉しそうに買っていってくれるお客さんを見ている内に、少しずつ考えが変わってきたんです。そして3年になり本気で将来の事を考えた時、パティシエになりたいって思いました」 七翔君は何かを思い出しているように、暫く黙り込んだ。 「薫さんに話したら反対こそされませんでしたが、『決して簡単な道じゃない』と自分の体験を話してくれました。友人にはせっかく大学に入ったのにと反対されました。それでも僕の決心は変わらなかったので、やっと今日両親に話しました。母親は考え直してくれと泣きだし、父親は一言も話してくれませんでした。ただ裏切られたような辛そうな顔をして、部屋から出ていってしまったんです」 「そう………」 実年齢は七翔君の方が近いが、彼が美琴と被ってしまうのでどうしても親目線で見てしまい、簡単に頑張れとは言ってあげられない。 「僕と父は思考や好みが似ていて、だから何となく父親だけは応援してくれるんじゃないかって思ってました。だけど実際は違ってて、何も言ってくれないのが見捨てられたようで悲しくて…。そしたら無性に志季さんに会いたくなったんです。一目だけでも顔が見たくなったんです。とっくに振られてるのに、バカですよね」 悲しそうなのに、無理に七翔君が笑うから……。 俺はそっと彼を抱き締めた。
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