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なんだ、そうか。
桃花さんの時は『好き』という気持ちを悟られないようにするのに必死だった。だけど、七翔君を好きになってからは、そういうのは止めた。だけど、相変わらずヘタレな俺はぐずぐずと告白出来ずにいるが。
だけど、会いたい気持ちをこうやって行動に起こすと、応援してくれる人が現れた。
ほんの少しだけど勇気を出した俺に対するご褒美みたいで嬉しい。
「あっ、志季さんだ」
えっ……。
店に入ってきた七翔君が俺を見つけて嬉しそうに寄ってきた。そしてさっきまで薫さんが座っていた向かいの席に座る。
「ガトーショコラ食べてるんですね、美味しそう」
「食べる?」
「いいですか?じゃあ一口下さい」
ケーキ皿を七翔君の前に置いてあげるが、フォークがない。
「ごめんフォーク使っちゃったから、新しいのもらうね」
「僕は大丈夫ですよ。………あ、でも志季さんが嫌か……」
「七翔君が気にしないなら使って」
「はい……じゃあいただきます」
七翔君は、一口分を綺麗に切り分けたガトーショコラをゆっくりと口に運んだ。手が震えていたのは気のせいかな。
「どう、美味しい?」
「はい」
何故か顔を赤らめながら、七翔君はうなずいた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
七翔君から戻ってきた皿にはまだ半分くらい残っている。
もう少し食べても良かったのにと思いながらケーキを半分に割りフォークに刺すと、七翔君が「あっ」と小さく声を上げた。
ん?と思った時にはすでに遅く、ケーキは俺の口の中に消えていた。
「ごめん食べちゃった。欲しかったの?」
「いえ。ただ、かんせ……」
七翔君は首をブンブンふりながら、何でもないですとうつ向いてしまった。
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