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七翔君がいない。別れてからもう10分は経っているから当たり前か。
家?それともケーキ屋?まさか今から大学はないよな。とりあえず家に行ってみよう。
刑事ドラマとかでスーツと革靴で普通に走ってるのを見るけど、実際にやったらすごく走りにくい。
そんな事を思いながら、記憶をたどり七翔君の部屋の前まで何とかたどり着いた。
明かりがついている。
息を整えながらドアチャイムを押すと、中からガタンゴトンと大きな音が聞こえてきた。
しばらくしてドアが開き、顔を出した七翔君は何だがいつもよりぼんやりしている。
「突然ごめん。今、大丈夫?」
「はい、…………でもどうしたんですか?」
「七翔君に話があって来たんだけど忙しいなら出直すよ」
「いえ忙しくないです」
「でも、さっきすごい音がしたけど……」
「あ、聞こえました?びっくりしすぎてフライパンを落としてしまったんです」
話している内に徐々に目に力が戻り安心する。
「あの、入ってもいいかな?」
「もちろんです。散らかっていますがどうぞ」
「ハハ、それ口癖?前もそう言ってたよ」
俺が笑うと、七翔君も笑った。
「前。………ああ、あの時は気持ちが一杯一杯で実はあまり覚えてないんです。同じ事言ってたんですね。でも今日は本当に散らかってます」
ほらという風に七翔君の視線を辿ると、キッチンの床にフライパンが転がっていた。
「夕食作る邪魔しちゃったんだな。ごめん、すぐ帰るから」
「あの、帰らないでください。…………ねえ、ちゃんと僕の気持ちを聞いてよ。目の前からいなくならないでよ」
七翔君が俺のスーツの袖をぎゅっと掴んだ。
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