7

8/11

917人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
七翔君がいない。別れてからもう10分は経っているから当たり前か。 家?それともケーキ屋?まさか今から大学はないよな。とりあえず家に行ってみよう。 刑事ドラマとかでスーツと革靴で普通に走ってるのを見るけど、実際にやったらすごく走りにくい。 そんな事を思いながら、記憶をたどり七翔君の部屋の前まで何とかたどり着いた。 明かりがついている。 息を整えながらドアチャイムを押すと、中からガタンゴトンと大きな音が聞こえてきた。 しばらくしてドアが開き、顔を出した七翔君は何だがいつもよりぼんやりしている。 「突然ごめん。今、大丈夫?」 「はい、…………でもどうしたんですか?」 「七翔君に話があって来たんだけど忙しいなら出直すよ」 「いえ忙しくないです」 「でも、さっきすごい音がしたけど……」 「あ、聞こえました?びっくりしすぎてフライパンを落としてしまったんです」 話している内に徐々に目に力が戻り安心する。 「あの、入ってもいいかな?」 「もちろんです。散らかっていますがどうぞ」 「ハハ、それ口癖?前もそう言ってたよ」 俺が笑うと、七翔君も笑った。 「前。………ああ、あの時は気持ちが一杯一杯で実はあまり覚えてないんです。同じ事言ってたんですね。でも今日は本当に散らかってます」 ほらという風に七翔君の視線を辿ると、キッチンの床にフライパンが転がっていた。 「夕食作る邪魔しちゃったんだな。ごめん、すぐ帰るから」 「あの、帰らないでください。…………ねえ、ちゃんと僕の気持ちを聞いてよ。目の前からいなくならないでよ」 七翔君が俺のスーツの袖をぎゅっと掴んだ。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

917人が本棚に入れています
本棚に追加