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いつもと違う電車に乗り久しぶりに実家に帰る。
「志季、お帰り。美琴が我が儘言ったみたいだけど、仕事は大丈夫なの?」
「ただいま。大丈夫だよ。それよりあまり帰って来れなくてごめん」
美琴には何度か会っているが、両親に会うのは正月以来だ。そんなに遠くに住んでいるわけではないのだが、休みになると実家に帰るより家事や友人との付き合いを優先させてしまう。
「気にしないで。それよりもちゃんと食べてるの?ちょっと痩せたんじゃない?」
後数年で30を迎える息子のご飯の心配をしてくれるなんて、子供の頃と変わってなさ過ぎて可笑しい。
「食べてるよ。簡単な物だけど自炊もしてる」
「そう、なら安心ね。ところでお付き合いしてる人はいないの?」
あー、この手の話は苦手だ。
「何言ってるんだよ。転勤になるかもしれないのに彼女なんか作れないだろ」
「バカね。結婚して一緒に連れて行けばいいじゃいの」
結婚か。俺だって出来るならしたいよ。桃花さんならしっかりしたいい奥さんになるだろうな。まあ、俺は間違いなく尻に敷かれるだろうが……
「あれ、誰かいるの?」
「いるわけないだろ」
「えー、そう?志季は隠し事が出来ないから」
母親と玄関で喋っていると、リビングから美琴が顔を出した。
「お兄ちゃんお帰り。ご飯食べるでしょ。サラダ大盛りにしといたからね」
「サンキュー。これ、ガトーショコラ」
妹にまで食べ物の心配をされているみたいで、何だか複雑だ。
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