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カシャーン……。 「あれ、今度は志季君?二人揃って仲良しだね」 風早さんがププと笑う。 だけど、それどころじゃない。 「瞼にキスより先に進まないから」 七翔君はそう言った。 「志季さん………」 七翔君に何か言ってあげたいけど今はムリ。ちょっ、ちょっと落ち着こう。なぁ、これって先に進みたいって言われてるんだよな?キスより先って………。 目の端にキラリと光る何かを見つけた。 「あ、すみません」 風早さんに頭を下げ、スプーンを拾うために背の高いスツールを下りてカウンターの下にかがんだ。 「……僕も」 七翔君も同じようにかがみ込む。 暗さを感じさせないくらいギリギリまで照明をおとした店内。静かな音楽が流れる中、目の前には愛しい存在が俺を不安げに見つめている。 「七翔君、好きだよ」 真似をして耳に囁く。 大きな目を更に見開く七翔君が何かを言う前に、そっと唇を塞いだ。 時間にしたらほんの数秒。 そうだね、言葉だけじゃ不安になるよね。だけど、ビビりの俺にはこれが精一杯。 だから、ここから先は宿題にして。
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