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「星宮君、ちょっといいかな?」
「はい。あ、この間の薬の資料でしたら……」
「いやいやそうじゃなくて、君、見合いしてみないか?」
外科部長の言葉に思考が停止する。
「君がまだ若いのは知ってるがいずれは身を固めるんだから、多少早くても大丈夫だろう?相手のお嬢さんは気立てがよくて素直ないい娘さんなんだよ。私もずいぶん前に一度だけ会っただけだけど、可愛らしい人だったよ」
ハハハと豪快に笑うこの人は、俺の担当する加藤総合病院で外科部長を務める右田先生だ。遠くからわざわざ右田先生に手術して欲しいと患者さんが転院してくる評判の名医だが、若い医者や看護師の結婚をまとめる事が趣味らしい。
だけどまさか病院勤務ではない俺にまで声がかかるとは思わなかった。
「私ですか?」
「そう、君だよ。星宮君とは1年の付き合いだが、私は君の誠実さや真面目さを買ってるんだよ。もちろん爽やかな容姿や穏やかな性格もな」
「はぁ……。でも私より優秀な先生方の方が相手の方も喜ばれるのでは?」
何十人という医者を抱えるこの病院には独身の医者も数多くいる。俺なんかより出会いがなさそうなその人達に話を振って欲しい。
「いやそれがね、お嬢さんは医者じゃない人を希望してるんだよ。父親が医者で、私の後輩なんだが、大変な姿を見てるからか結婚するなら普通のサラリーマンがいいと言っててね。それを聞いた瞬間、星宮君が浮かんだんだよ。どうかね?」
どうかと言われても全く興味がない。
大切な七翔君がいるから勿論だが、彼と付き合っていなくても同じだっただろう。
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