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どうやったら機嫌を損ねずに断れるだろう?
「あの、相手のかたはMRがどういう仕事かご存知なのでしょうか?人にもよりますが2年毎に転勤があり全国どこにでも行かなければなりません。子供が出来ても引っ越しの連続ですし、実家に帰るのもほとんどできないんです」
「あまり気にしてなかったが、君達も大変なんだな」
「いえ。私はそれを承知でこの仕事を選びましたが、妻になる人にはより多くの苦労をかける事になります。だから、私より普通の会社勤めの方の方がいいかと……」
右田先生は「そうか……」と言ったまま考え込んでしまった。
声をかけることも出来ず待っていると、電話が鳴った。
「どうぞ」と言ってもらえたので、「すみません」と謝り、先生に背を向けて電話に出る。
七翔君だ。
「もしもし、どうしたの?」
「あの、明日のデートなんですが……あ、まだお仕事中ですか?」
時計を見ると12時。普段なら昼休みだ。
「そうなんだよ。ごめんね、後でまた折り返す。でも君からの電話、すごく嬉しかったよ」
手短に通話を終えると、右田先生と目が合った。
「恋人かな?」
「はい」
隠してもしたかないので、正直に返事をする。
「そうか、ならこっちは諦めるしかないな。親御さんも娘さんと近くに住みたいとおっしゃっていたから、今回は諦めるよ」
「私なんかに声をかけていただき、ありがとうございました」
良かった。何とか回避できた。
その後恋人について少し質問をされたが、すぐに解放された。
七翔君と別れるつもりは毛頭ないが、周りに公表できないのでこれからもこんな問題は起こってくるだろう。
…………それに転勤。
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