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七翔君のアパートの前の道が狭いので、待ち合わせは駅前にした。 ロータリーに車を入れると不動産屋の前に七翔君が立っているのが見えたので、彼の前まで車を走らせる。すると、すぐに気づいた七翔君が嬉しそうに駆け寄ってきた。 助手席の窓を開けると、少し照れくさそうな七翔君が顔を覗かせる。 「志季さん、おはようございます」 「おはよう。待った?」 「いえ、さっき来た所です。カッコいい車ですね」 「ありがとう。気に入って買ったから誉めてもらえて嬉しいよ、まあ、今は美琴の車みたいになってるけどね。さあ、乗って」 ドアを開けた七翔君は、助手席にちんまりと座っり良かったと呟いた。 「どうかした?」 「いえ、熊がいたらどうしようかなって思ってたから」 「アハハ、あの熊は年の離れた従姉妹にあげちゃってもういないんだって」 「そうなんですか。従姉妹さんって何歳なんですか?」 「15歳。まだ中学生なんだよ」 「へえ」 「美琴になついてて、たまに実家に遊びに来るんだ。俺は正月に会うくらいだけど、その度に大きくなっててびっくりするよ」 最初は緊張しているのか背筋をピント伸ばして座っていた七翔君だが、話している内に少しだけリラックスしてきたみたいだ。 「で、行き先は海でいいの?今の時期すごく寒いかもしれないよ」 「………志季さんが嫌じゃなければ行きたいです。僕、海にドライブで行くの憧れてたんです」 「へえ、そうなんだ」 「あ、女の子みたいとか思ったでしょ。でも、映画とか遊園地とかの人が多い所より、人気(ひとけ)のない冬の海がいいなって思ってて」 明るくて人懐っこい七翔君はいつも大勢の人に囲まれているのに………人気のない海? 「ねえ 理由(わけ)を聞いてもいい?過去に何かあった?」
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