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恥ずかしさに耐えきれず二人同時に車から飛び出し、駐車場から続く階段で砂浜に降りた。
火照った頬に冷たい風が気持ちいいと思えたのは一瞬で、すぐに体から体温が奪われていく。
だけど、波打ち際まで走り波を追いかけてはしゃぐ七翔君を見ていると、体とは反対に心がポカポカと温かくなる。
「こんな所まで水が来るんですね。わ、危ない。濡れる所だった。志季さんも来て下さい。ほら楽しいですよ」
すごく寒いけど、こんな無邪気な七翔君を見れただけでもデートに誘って良かったなと思う。
「ハクション」
半端なく強い海風に思わずくしゃみがでた。
「寒いですか?」
「まあ。七翔君は?」
「僕は体温が高いから平気です。でも志季さんが心配なのでそろそろ戻りましょう」
もうちょとだけ遊ばせてあげたくて、問題ないと言う風に右手を上げる。鼻を啜っているのはこの際無視してほしい。
「手が真っ赤ですよ。わっ、冷たい」
七翔君が俺の右手を両手で包んで、あまりの冷たさに声を上げる。さっきから手先の感覚がなかったけど、そんなに冷たくなってるのか。
「鼻も頬も真っ赤ですよ。もしかして、寒いの苦手ですか?」
「うん、実は苦手」
「もう、早く言ってくださいよ」
ちょっと怒りながら七翔君が自分がしていたマフラーを俺の首に巻いてくれる。
「温かい」
それに大好きな七翔君の匂いがする。この爽やかな香りはなんだろう?
「七翔君は香水つけてるの?」
「いいえ。僕そういうの苦手で。それにバイトの時は香水とか禁止なんです」
確かに、ケーキ屋さんにきつい香水の香りはダメな気がする。
「じゃあこの香りは何?」
「え、香り?何だろう。柔軟剤かな?」
七翔君がマフラーに鼻を近づけてクンクンする。
ち、近いから。
急接近に心臓が煩く騒ぎだす。
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