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「パパー」
突然がっと後ろから両足を拘束され、倒れそうになる。
「大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう」
助かった。七翔君がいなかったら顔面から砂に向かってダイブしていたかもしれない。
すぐに女の人が走ってきて、俺に頭を下げる。
「すみません。あいちゃん、離して。パパはあっちよ」
どうやら小さな女の子がパパと間違えて俺の足にしがみついたらしい。
腕を回したまま顔だけを上げた女の子と目が合う。
「パパ違う」
「だから言ってるでしょ。パパはあっち」
向こうで手を振っている優しそうな男の人が父親なんだろう。
「あ、パパだ。パパー」
俺から離れた女の子は父親に向かって走って行った。
「ごめんなさい、汚れなかったですか?」
母親の手にはプラスチックで出来たバケツや熊手等の砂場合セットが握られている。美琴が小さい頃よく近所の公園で砂遊びに付き合わされた事を思い出した。
「大丈夫ですよ。ちょっと懐かしかったです」
「え?」
「あ、妹がいるんですが、よく砂遊びに付き合わされてたんです。そう言えば妹も小さい頃、母親と間違えて知らない女の人に抱きついてました」
「そうなんです。あの子……愛美って言うんですが……もそうなんです。全然似てない人でも私や主人と同じ色のジーンズをはいてるだけで抱きつくので困ってしまいます」
「可愛くて俺は嬉しかったですけどね」
「そう言っていただけると………」
母親が嬉しそうに微笑んだ。
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