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小桜さんの事は一先ず置いておいて、問題は目の前の七翔君だ。
「えっと……俺年上好きってわけじゃないから。前に付き合った子は年下だったし。あ………」
━━今、元カノの話題を出すなんてバカすぎる。
案の定、七翔君の機嫌がますます悪くなった。
このままじゃ、初デートの思い出が喧嘩になってしまう。どうしたら………。
さっき七翔君は何て言ってた?確か「志季さんがあの女の人と仲良く話しているのに嫉妬したんです」だった。
そうか………
例えば、友人と二人で歩いていて偶然友人の知り合いに遭遇した時と似た感情かもしれない。楽しそうに話している友人達から一人切り離され、居心地の悪さを感じてしまう。自分はここに居ていいのか、それとも先に行った方がいいのか迷い、結局言い出せないまま時間だけが過ぎていく。
デート中なら尚更嫌な気分になっただろう。
「七翔君、君を一人にしてしまってごめん。寂しかったよな。反省してる」
きっぱりと謝ると、さっきまで怒っていた七翔君の顔が泣きそうなものに変わる。
「僕こそ、ごめんなさい。志季さんは全然悪くないって分かってるのに、勝手に不安になって八つ当たりみたいなことしてしまって……。それに、志季さんが僕の事を本当に好きでいてくれるって分かってるのに、疑うような事言っちゃったし」
「ううん。そんな風に不安にさせた俺が悪いよ」
それと、小桜さんも。
周囲に誰もいないなら七翔君を抱き締めたいが、冬の砂浜は思ったよりも人がいて出来そうもない。
だから、ありったけの思いを込めて彼を見つめた。
「ねえ、仲直りに美味しいもの食べに行かない?デートはまだ始まったばかりだよ。もっと沢山楽しいことしよう」
「はい」
人を好きになるって不思議だ。いくら止めようと思っても不安や苛立ちは消えない。時には嫉妬したり憎んだりもする。だけど、心の底から湧き上がってくる愛おしいという感情は何物にも代えがたく、俺を満たしてくれるんだ。
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