9

14/20
前へ
/167ページ
次へ
土地勘がないので適当に車を走らせていると、沢山の大漁旗がはためいている店を見つけた。 「あそこにしませんか?」 「そうしようか。でも満員かもしれないな」 店の前に広い駐車場があるが、俺達が着いた頃にはほぼ埋まっていた。 引き戸を開けると「いらっしゃい」という威勢のいい声で迎えられ、料理を運んでいた店員から「奥空いてるよ」と声がかる。 沢山あるテーブルもこれまたほぼ埋まっており、客達はテーブルの上にある七輪で魚介を焼きながらビールを飲んでいた。 「美味しそうですね」 「そうだね。車じゃなかったら飲めるのにな」 ビールはあまり得意じゃないが、みんながあまりにも美味しそうに飲んでいるからか少し気になる。 「僕運転するので、飲んでください」 「ありがとう。ちょっと言ってみただけだから気にしないで」 七翔君の優しさに笑みが漏れる。 「でも……」 「いいから。さて、何食べようか?」 さんざん迷ったあげく、スルメイカとホタテと海鮮丼を注文した。 すぐに運ばれてきたホタテとイカを七輪に並べてビール代わりに熱い緑茶を飲むと、冷えてた体がほかほかしてきて思わず顔が緩む。 「志季さん、幸せそう」 「ハハ、そうかな」 「はい。あ、焼けてきましたよ」 いい具合に焼けたホタテを皿に取り醤油をかけると、腹の虫がグーっと鳴った。 「いただきます」 二人で手を合わせ、香ばしく焼けたプリプリのホタテにかぶりつく。ん、うまい。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

917人が本棚に入れています
本棚に追加