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二人で淡いピンクの海を進む。 コスモスってあまりちゃんと見たことなかったけど、可愛い花だな。柔らかい風に揺れている可憐な花に見とれていると、七翔君の静かな声がした。 「ここは、父が母にプロポーズした思い出の場所なんです」 「そうなんだ。こんな綺麗な所でプロポーズなんて、お父さんロマンチストなんだね」 「どうでしょうか。花好きの母にはピッタリの場所だとは思いますが。子供の頃何度か連れてきてもらって、その時母から聞いたんですが、母がすごく嬉しそうで僕まで嬉しくなったのを覚えてます」 そんな大切な場所に俺を誘ってくれた事がとても嬉しい。 その時、さっと風が吹いて、コスモスが一斉にざわっと揺れた。 「綺麗だな」 「はい」 ピーク時間が過ぎたのかほとんど人がいないのを確かめて、七翔君の手を握る。 「俺達まだ付き合い始めたばっかりでお父さんのようにプロポーズとまではいかないけど、七翔君をずっと大切にするって誓うよ」 「……はい」 七翔君の目にキラリと何かが光った気がした。 「僕も誓います。何があっても志季さんをずっと大切にします」 「ありがとう。………キス、したいね」 「したいです」 「帰ろうか?」 「はい」 はやる気持ちを抑えて二人でコスモス畑の写真を撮っていると、「撮りましょうか?」と後ろから声がかけられた。 振り向くと大きめのリュックを背負った男の子が立っていた。 「いいの?」 「はい。その代わり僕も撮ってもらえますか?」 「いいよ」 彼は高校生で写真部に入っていて、休みになると自転車であちこち写真を撮りに出掛けているらしい。 「普段は撮る専門なんですが、たまには撮られたいなって思って」 「頑張るけど、あまり期待しないでね」 「してないので、大丈夫です」 「なまいきだな」 「よく言われます」 急にぐいと腕を引かれて七翔君を見るとちょっと怒っている。 あ、またやってしまったかも。
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