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自覚はなかったけど、俺って色々ダメかも。 「じゃあ並んで下さい。早くしないと日が落ちて真っ暗になりますよ 」 西の空にオレンジが混ざり始めていた。 コスモスの前に並んで立つと、もう少しくっついてと要求される。 「二人は兄弟ですか?」 「いや、恋人なんだ」 俺は七翔君の肩に腕を回し抱き寄せた。 「初デートの記念だから綺麗に撮ってくれよ」 「えっ」 「任せてください」 ビックリしてる七翔君をよそに、高校生は涼しい顔でスマホを向けてきた。 「彼氏さん、表情固いですよ。笑って笑って」 「ほら言われてるよ。笑って」 「やだ、耳くすぐったい」 「あ、ごめん」 可愛いなと思って見ていると、「撮れましたよ」とスマホを返された。 「次は僕の番です」 彼は首からぶら下がったカメラじゃなく、ポケットからスマホを取り出して渡してきた。 「カメラじゃなくていいの?」 「ああ、こいつは癖があって撮りにくいからこれで」 「そう?はいチーズ」 「うわ、古すぎ」 夕日に輝くコスモスを背景にちょっと生意気な高校生を撮る。文句を言いながらも笑顔を向けるので、なかなか上手く撮れた気がした。 「ありがとう。気をつけて帰れよ」 「お兄さん達もね。お幸せに」 絶句している俺達に大きく手を振りながら、高校生は帰って行った。 「今時の高校生ってすごいな」 「そうですね。志季さんも恋人だなんて……よかったんですか?」 「いいよ。ここでは嘘をつきたくなかったから。ダメだった?」 「いえ、嬉しかったです」 車であんなに偉そうに説教したのにな。でも、どうしても兄弟だとは言いたくなかったんだ。 どちらからともなく自然に手を繋ぐ。 「また来年も見に来ような」 「はい」
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