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「これは?」
「出汁茶漬けだよ。おにぎりを出汁に入れて崩して食べてね。はい、薬味」
続いてネギとわさびときざみのりを乗せた小皿が出された。
箸でおにぎりを掴むと、そっと出汁に入れる。白いご飯にゆっくりと出汁が染み込むのを見ていると「崩して」と風早さんから指示が出された。
おにぎりを崩すと、中からたっぷりの鮭が出てきた。
「うわ、鮭茶漬けになった」
「ハハ、喜んでもらえた?明太子とか高菜とか具を変えれば色んな茶漬けが味わえるんだよ」
出汁のうまそうな香りと、鮭のピンクに食欲が刺激され、小さくくーと音がなった。
いただきますと手を合わせ、薬味をかけて一口食べる。
「美味しいです」
「志季君は好き嫌いせずに何でも食べてくれるから、作りがいがあるよ」
更に優しい表情を浮かべる風早さんは、薫さんを思い浮かべているんだろう。
食べ終わるとほうじ茶が置かれる。
「ごちそうさまでした。あの……佐藤さんのことすみません」
「気にしないで。志季君は悪くないから」
「………はい」
「あ、薫には内緒にして。俺が慎に関わると不安みたいだから」
七翔君を好きになって分かった事がある。恋愛って不思議なもので、好きな相手とうまくいってればいってるほど今の幸せを無くすことが怖くなる。必要以上に相手を観察し、いつもと少しでも違う所があれば途端に疑心暗鬼になる。
「はい」
風早さんは頷く俺の頭に手をやり、ポンポンと撫でてくれた。
「ぐ、ぐご」
カウンターの隅から奇妙な音がする。
「慎の奴、飲み過ぎなんだよ。そろそろ叩き起こさないとまずいな」
「小桜さんて電車ですよね。俺タクシーで帰るので送ります」
「いいの?」
「はい」
「ぐ、ぐがー」
最初苦手だった小桜さんが、少しだけ可愛く見えた。
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