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「おかわり下さい」
佐藤さんは、空のグラスを風早さんに差し出した。
「飲み過ぎじゃない?」
初めて一緒に飲むので普段の彼女のペースは分からないが、すでに飲み過ぎな気がする。
なのに「全然大丈夫です」と引かない。
「はい、どうぞ」
「あれ、今度のは甘い気がする。本当のジュースみたい」
味覚まで鈍くなってきたのか。
「もう飲まない方がいいよ」
「星宮さんは心配性ですね。ふふ、でも嬉しい。前は桃花さんしか目に入ってなかったから。でも……私の事忘れてるでしょ?」
佐藤さんは嬉しそうに笑った後、すぐに表情を暗くした。
「佐藤さんの事忘れてる?」
「そうです。去年の入社式の日、会社の前で転んだ私を起こしてくれて、手当てしてくれましたよね?」
去年新入社員の案内係として入り口付近で待機していたら、走ってきた新入社員の女の子が会社の前で派手に転んだ。勢いがついていたからか、鞄が飛び、ヒールは脱げ、膝からは血を流していて見ていてとても痛々しかった。
すぐに走り寄り「大丈夫ですか?」と声をかける。が、恥ずかしいのか顔を上げてくれないので肩に俺の上着をかけ、なるべく傷が見えないように医務室に運び込んで手当てした。
あの時の人が佐藤さんだったなんて……….?
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