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 そして、そんな他の種を自らの為に利用した例の一つとして、「カブトガニ」の話があげられる。  これに関しては、知らない人間も多いだろう。    カブトガニは数億年も前からその姿形をほとんど変えることなく生きてきた、生きる化石とも呼ばれる生物であることは知っている者もおろう。  人間は、そんな「生き抜く」ということに関してのエキスパートに目を付けた。    実は、カブトガニの生息地である海底には陸上以上の細菌がうようよしている。人間のように医療などないカブトガニは、血液中に含まれる特殊な細胞により体内でネバネバの防御壁を造り、病原菌から身を守っているのだ。  人間が目を付けたのは、この特殊な能力を持つ血液だった。  医療の現場において、ワクチンや医療機器が細菌に汚染されていないかどうかを、この血液を使って検査できることが発見された。細菌汚染があれば、血液中の細胞が反応してネバネバを放出する。それを見て、安全かどうかをはかる。そうして、無事使われる医療機器やワクチンが、人間の寿命を延ばす、というわけである。  そして人間はその血を求めて、大量のカブトガニを捕獲し、命をも奪っていった。  初めは採血をした30%ほどが死に至る程度であったが、それが後に50%、60%と上がっていき、命をつなぎとめた個体もその繁殖率に大きな影響をもたらしだし、ついに数億年と生き続けてきた彼らを人間は絶滅においやってしまった。    それからは、この長い歴史から見ればあっという間だった。  どんどん強欲になっていった人間は、生きた化石だけでは飽き足らず、この星の命までも奪っていった。人間の手により破壊された環境は―――、  うっ―――  ・・・・・・  人間の手により破壊された環境は、人間自身すらそのままでは生きることができないまでになってしまった。  しかし、これだけあの手この手を使って、「生きる」ことに貪欲に来た人間はそれでもなお「生きる」ための手段を模索した。  その結果、人間はそれまでの姿形を捨てることを選んだ。  環境に対応するための進化。人為的なものと自然発生的なものが掛け合わさり、行き着いた先は、奇しくも、かつて人間自身が滅ぼした「カブトガニ」のそれと類似していた。  いや、もはや「カブトガニ」それ自体だった。  
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