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「和子ちゃんはさあ、アンタの絵のこと何て言ってるの?」
少年の方は見ずに、前を向いたまま質問した。少年は鼻を啜って「好きだって。世界一上手いって」と、嗚咽交じりに答えた。
「じゃあやっぱり見送りに行くべきだよ、明日。少なくとも、アンタの絵を好きでいてくれる人のために」
少年は何も答えなかったが、しばらく目元に強く腕を押し当て、そしてゆっくりと顔を上げた。
「……しゃーねえから、行ってやる。でも絵は渡さねえ」
なんでよ、と少年のスケッチブックを覗き込んで納得する。ほとんど完成しているその絵は、ところどころが丸く滲んでいた。
「あー、涙で滲んだから」
「まだ完成してないからだ!」
予想通りの反応が返ってきた。思わず笑いそうになったのを堪えたせいで、喉の奥で変な音がでた。むくれた少年に、「ごめんって」と肩を叩く。
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