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「いい絵でしょう」
背後からあのバーテンダーの声がして、慌てて頬を擦った。
「はい。なんか、すごいですね」
語彙力の乏しさに苦笑いを浮かべた。
男はポケットから真っ白な手袋を取り出し手にはめると、丁寧な手つきでその絵を壁から取り外した。そして恵の前に差し出す。
「古川茂という画家をご存知ですか」
「あ、ニュースで聞いたことあります。この前、すごい賞を受賞したとかって」
芸術音痴な恵でも聞いたことのある有名な名前に、その絵と男の顔を見比べて「まさか」と目を丸くする。
「お察しの通り古川茂の作品です。彼が十三歳の頃に描いたもので、ほら、日付がここに」
指さした箇所を見ると、きっと色を塗った筆でそのまま書いたのであろう少し太い文字で「1964′8′16」と書かれていた。
「曽木発電所遺構の絵です」
聞きなじみのない名前に首を捻ると、男はカウンターに戻り恵に向かって手招きをした。促されるまま席に戻れば、一冊の分厚い本を渡される。
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