一章 山高帽の青年

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 不思議に思いながらページをめくると、先の絵と同じ雰囲気のものが何枚も掲載されていた。どうやら「古川茂」の絵を集めた図録らしい。 「曽木発電所は、鹿児島県の伊佐市にある昔の建物です」 「鹿児島」 「ええ。今はダム湖の底に沈んでいますが、水位が下がる夏にはこの絵のように現れるんです。古川茂は伊佐市の絵で有名なんですよ。伊佐市出身だからでしょうかね」  恵は本から目が離せずに、胸に迫りくる何かに必死に涙をこらえていた。今まで感じたことのない感情に戸惑いを隠せない。  懐かしい、という感覚に近いけれどそうではない。もっと心に訴えかけてくるような、激しく、必死で、とても強い力に引っ張られるような感覚だった。
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