47人が本棚に入れています
本棚に追加
「二十四の大人が道に迷うなんて、よっぽどのんびり屋なんですね」
肩を竦めると、廉太郎は「違いますよ、今日だけです!」と慌てて反駁する。
「明日、恋人に結婚の申し込みをするんです。そのことで頭がいっぱいで、気が付いたら迷っていて」
「……へえ、プロポーズ」
恵の声が一段と低くなる。
数日前に恋人と別れた恵にとっては、あまりにも羨ましく、胸に突き刺さるワードだった。
ダム湖の底に届きそうなほど深い溜息を吐き、柵にぐったりと伏せた恵に廉太郎は慄いた。
「ど、どうかなさったんですか」
「聞いてくれるんですか!?」
バッと飛び起きた恵が眉を吊り上げて身を乗り出す。目を丸くした廉太郎は身を引いて、ぎこちなく頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!