一章 山高帽の青年

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「────それで最後になんて言ったと思う!? 『お前がそんな冷たい奴だから別れるんだ』って言ったのよそいつは! 最低クソ野郎よ!」 「確かに最低クソ野郎ですね」  恋人と別れることになった経緯をすべて話し終え、自分が求めていた相槌が返ってきたことに満足げに鼻を鳴らす。 「このご時世、恋愛結婚できる人は恵まれているのに、自らその機会を棒に振るなんて、愚か者です」 「このご時世って、いつの時代の話をしてるんですか?」  お見合い結婚の方が珍しいでしょ、と心の中で突っ込んで呆れたように肩を竦める。 「大和男児の風上にも置けないような男とは、縁が切れて良かったと思って下さい。貴女にはもっと素敵な出会いがあります!」  自分のことのように顔を顰めて憤慨する廉太郎は、ずんと身を乗り出し恵の両手を握る。そしてハッと我に返り慌てて手を放し距離を置いた。
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