一章 山高帽の青年

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 トンネルの中はとても静かで、太陽の光だけが僅かに届く。  砂利を踏みしめる足音が、ザッザッ──と響いていた。  白い岩の表面から湿った冷たい空気が伝わってくる。その昔ここにも水が流れていたことを物語っていて、なんだか背中が落ち着かない。まるで今にも背後から大量の水が押し寄せてきそうな緊張感があった。  この素掘りのトンネルは曽木の滝から導水していた水路の跡だと、ここへ来る前に教えてもらった。  そんなことを思い出しながら、森林と水の匂いがするトンネルを、出口を目指しひたすら歩いた。
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