一章 山高帽の青年

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「僕には二十離れた再従兄弟がいるんです。来年で四つになるのですが、しげ坊と言って、本当に可愛らしくて、いい子で優しい子で。それなのに出生が複雑なせいで、親戚から疎まれているんです」  悲しげに顔をゆがませた廉太郎は、目を伏せた。 「だから、彼女と結婚することができた暁には、しげ坊を養子に迎えようと思っているのです。養子って女性からすると、受け入れがたいのでしょうか? 僕の自分勝手を彼女に押し付けたくはないんです」  廉太郎は迷いのある表情だった。しかしその瞳からは強い決意が窺えた。やれやれと肩を竦める。  廉太郎は自分勝手を押し付けたくないと言っているが、心の中ではもう『しげ坊』を養子に迎え入れることに決めているのだ。  廉太郎が欲しいのは、きっとその背中を押す一言なのだろう。 「それは、その恋人さんに聞かないと分からないんじゃないですか」  「ですよね」とうなだれる丸くなった背中に続けた。
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