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「でも、貴方の惚れたその人は、そんな不遇な立場の子を見捨てるような女性なんですか?」
「違います! 彼女は誰よりも優しく、心の美しい女性です! 『雨ニモマケズ』にでてくるような、病気の子を助け、困る老人には手を差し出し、自分は文句ひとつ言わずに静かに微笑むような女性です!」
廉太郎ははっと動きを止めた。そんな廉太郎に微笑む。
「大切にしてあげてくださいね、恋人さん」
一瞬泣きだしそうな表情を浮かべた廉太郎は、鼻を触るとはにかみながら頷いた。上を向き、太陽の位置を確認した廉太郎は「もうそろそろ戻らないと」と呟く。
「ありがとうございました。今日は道に迷えてよかった」
「こちらこそ、愚痴を長々と聞いてくれてありがとう」
「あなたにも、きっといい方が現れます。柿本廉太郎が保証します」
ほとんど瞑っているように見えるくらい目を細めて、眩しいほどの笑顔を見せた廉太郎は、律儀に姿勢を正して頭を下げると、手に持っていた山高帽を深くかぶった。
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