一章 山高帽の青年

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 つい昨日、なんとなく「この人と結婚するのだろうな」とうっすら考えていた男にふられたばかりだった。  それもびっくり「好きな女ができた」という一方的な別れ話。  驚きのあまり出た言葉は「ああ、そうなの」で、最終的にはその男に「お前がそんな冷たい奴だから別れるんだ」と自分のせいにまでされたという仕打ちだ。  呆れて物も言えず、泣きわめくことも罵ることもできないまま、たった数分間数行の台詞で学生時代から付き合っていた恋人とぷっつり縁が切れたのだ。  自分は、これでも真剣に付き合ってきたはずだった。出会えたことに運命を感じときめいた時代もあった。少しした頃には落ち着いて、共にいる時間を幸せに感じた。彼が喜ぶからとメイクを覚え、料理も挑戦した。  何より青春時代のすべてをその彼にささげてきただけあって、突然の別れの衝撃はかなり大きい。最後に心に残ったのは、悲しさや怒りよりも虚しさの方が多かった。  そして、そんな出来事に吸い寄せられたかのように集まってきた不幸たち。大失恋からの仕事で大失敗、からのサービス残業。辛気臭くない顔をしない方がおかしいだろう。
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