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カラン、とドアベルが鳴り響くと、壮年の男がすかさず振り返った。目じりを下げて柔らかく微笑み、「いらっしゃい」と声を掛ける。
慣れない雰囲気に少し怖気ついて、バックの持ち手を握りしめた。
「カウンターでいいですか」
「あ、はい」
バーテンダーの男は、カウンター席に向かって手をさし出し微笑んだ。
促されるまま席に着く。男はメニュー表らしきものを差し出した。豪華な額縁のような金の装飾で縁取られたものだった。
受け取り、開いて、そして固まった。──なんだこれは、呪文か。
「────お酒、強いですか?」
グラスを拭きながら唐突に尋ねてきたバーテンダー男に、「え、いや、あんまり」としどろもどろに答える。
「しぶいものは?」
「あ、普段はフルーツ系とか爽やかなのを……」
男は目を弓なりにして「任せてもらえますか?」と尋ねた。
コクリと顎を引き、助かった、とばかりに息を吐きながらメニュー表を端に寄せた。
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