一章 山高帽の青年

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 バーテンダー男がカクテルらしいそれを作る作業に入り、手持ち無沙汰になった恵はきょろきょろと店内を見回す。  カップルの客が二組、離れたカウンター席に男が一人。  薄暗い店内には、オレンジ色の照明に照らされた、見たこともないような絵画が壁一面に並んでいた。  風景画だったり人物画だったり、水彩画だったり油絵だったり。飾られているものはばらばらだけれど、どれも店の落ち着いた雰囲気によく合っていた。  一通り見て、また前を向く。  店内に流れる落ち着いたクラシックのBGMに、ふっと体の力を抜いた。  そのまま崩れるようにテーブルに突っ伏す。今日でまた何度目かの深い溜息を吐き出した。
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