赤にかけられた青の呪い

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**** 「あらー、雄一くん。久し振りねぇ」 「あ、どうも」  帰宅した僕に声を掛けてきたのは絵美の母親。もちろん、青ずくめなんかじゃない、ごく普通の母親だ。仕事帰りらしく、グレーのスーツを着ている。  その姿を見て、絵美は就職したら青のスーツでも着るのかな、なんて思ったりした。 「大学まで同じなんてねぇ。長い付き合いになるわね」 「そうですね。絵美のヤツ、今日も青かったですよ」 「そうなのよ。ホント困った子だわ」 「よっぽど好きなんですね、青が」  僕がそう言うと、絵美の母親は一瞬ポカンとしたあと、盛大に笑い出した。 「え、ちょ、ど、どうしたんです?」 「あー、そう、そうなの! そうなのねぇ」  彼女は笑いすぎて目尻に溜まった涙を指先で拭いながら、僕の肩をパンパンと叩いた。 「え、あの……」 「いいのいいの、何でもないのよ。ごめんなさいね」  ふぅっと息を吐いて、彼女は僕に向かって柔らかく微笑む。 「絵美のこと、よろしくね」 「え、ああ、はい」 「あの子、変に頑固だし不器用だし、それなのに肝心なところは意気地がなくてねぇ」 「はぁ」 「でも悪い子じゃないのよ」  さすがにそれは分かっている、と言いかけたとき、彼女は僕の家の表札に視線をやって、くすりと笑った。 「それにしても、変な話よねぇ」  それは今までも散々話題にしてきたこと。僕だって、何度話のネタにしたか分からない。 「赤井の隣の家が、青山なんてねぇ」 「なんかコントみたいですよね」  二人で少し笑い合うと、彼女はそうだ、といって悪戯っぽく笑った。 「一つだけ、教えてあげる。絵美がね、青を好きになったのは、雄一くんの隣の席になったときからよ」
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