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「やあ、久しぶり。」
西麻布の小洒落たレストランで、詩織は和成と久しぶりに会った。彼がアメリカから帰国すると知ったのは、誠が誰かに取り憑くというアイデアを話したその日だった。
「久しぶり。」
和成は付き合っていた当時とあまり変わったようには見えなかったけれど、詩織はもう彼のことを愛してはいない。
食事をしながら、和成はアメリカでの暮らしや仕事について、雄弁に語った。それは詩織にとって、関係のない世界の話のように感じて、ただぼんやりと聞き流した。
「詩織も、忙しかったんだろう?夜遅くまで働いてたみたいだし。」
和成が話を振るが、詩織は急だったので何と言って良いか困った。
「まあね。本当にあの日はデッド・ナイトだった。」
詩織は短く答える。夜中の3時、詩織は誠に出会い、誠は死んだ。本当に死んだ夜だった。
「ねえ、和成は幽霊って信じる?」
詩織はグラスを置いて尋ねる。カラリと氷の転がる音がする。
「いや、信じてはないかな。」
和成は答えた。それはそうだ。まともな現代の大人は幽霊なんて信じない。
「でも、この前中国から帰国した同僚から面白い話を聞いたよ。なんでも、中国には幽霊との結婚があるらしいんだ。」
彼の話によると、その風習は冥婚と呼ばれるらしい。若くして未婚で亡くなった女性が生きている男性と婚姻関係を結ぶ。相手男性は必ずしも生前の知り合いではなく、偶々道端で赤い封筒を拾った者を遺族が結婚相手に選ぶのだと言う。
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