The Dead of Night @丸の内

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その時、詩織はすぐ側でタイヤがアスファルトに強く(こす)れる音を聞いた。視線を上げると、青のBMWが詩織に向かって飛んでくるのが分かる。 轢かれる。詩織はそう思った。 運転手の男と目が合った。結構、イケメンだな。こんな時に何を考えているんだろうか。 男は思い出したようにサイドブレーキを握り、急ハンドルを切って詩織を避けようとするが、車体は慣性の法則に従って、詩織に向かって滑り続ける。その光景は見開いた詩織の両目にはスローモーションのように映った。 ああ、私、死ぬんだな。詩織はその時それだけ思った。詩織は目を閉じると、自分が闇夜に溶け出していくような気がした。 もう何がどうでも良いや。詩織は衝撃に備えて目を強く瞑った。車体が何かに打つかって、金属が破壊される音がする。激しい爆発音が続く。 そして、また静かになった。 詩織は恐る恐る目を開く。白い横断歩道の線に自分の影が揺れているの見える。振り向くと、BMWが街路樹に突っ込んで、静かに燃えている。フロントガラスは粉々に砕けていて、車体は殆どスクラップになっている。 その酷い光景とは反対に、詩織は自分が生きていることに安心した。そして次の瞬間、運転手を助けなくてはと思った時には、詩織は火の中に飛び入っていた。壊れたフロントドアから、運転手を引き摺り出した。いくら細身とはいえ、成人男性の身体を引き摺るのは重労働だった。しかし早く車から離れなくてはならない。そう思った瞬間、ふと男の身体が軽くなった。誰かが後ろから手伝ってくれているみたいだ。振り向いてお礼を言う余裕はないが、誰であれ助かることには違いない。詩織は力を振り絞って、反対側の歩道まで運転手を運んだ。力尽きてアスファルトに尻餅をついた時、車体からまた大きな火が上がった。
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