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「大丈夫?」
燃え盛る車を見て呆然としていた詩織に、後ろから声が掛けられる。 その声に我に返って、運転手の男を起こそうとする。頭を強く打って、意識がないようだ。目を閉じた男は、やっぱり綺麗に整った顔だった。
「私は大丈夫ですが、この人が。救急車、救急車をお願いします。」
詩織は背後の男に言った。しかし、彼はうんともすんとも言わない。
「救急車!お願いします!」
詩織は運転手に心臓マッサージをしながら、もう一度大きな声で叫んだ。
「もう、死んでるよ。」
詩織の必死さとは反対に、背後の男は冷静に言った。その言葉に、詩織は初めて後ろを振り返る。
「そんなの分から......。」
詩織は男の顔を見て絶句した。それは今まさに詩織が跨っている男と同じ顔だったのだ。
「本人が言うんだから、間違いないよ。」
彼は苦笑いをして言った。詩織は手を止めて、そしてそのまま固まった。何がどうなっているのか。もう訳が分からない。
しかし彼の笑顔だけは底なしに素敵だった...。
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